FUJIFILM X100T
「今日の宿題、”散歩”なんか」
僕は目をギョロギョロさせながら、助手席に座る娘をちらりちらりと見て訊いた。
「パパ、何でさっきのカド曲がらんかったん?」
「いや、車が止まっとったから・・・」
宿題が「散歩」というあまりの衝撃に、曲がるのを忘れて通りすぎただけだ。次の角で、早めにウインカーを出して、そろりと回った。
「散歩が宿題って、何すんの?」
「散歩ちゃうわ。”サ・ン・ド”や!」
「サンド? サンドって何なん?」
「算数ドリルで”算ド”な」
「なるほど」
ハザードスイッチを押して、駐車スペースにバックでアクセルを少しずつ煽ってノロノロと動かす。首を大きく左右に振って周りを確認している間も、娘が何か言っていたが、僕はウワノソラで「うん」「うん」と曖昧な返事をしていた。
45問の算数のドリルを2ページ。全90問。穴あき掛け算が、問題だった。
「こんなんやって、何なるんやろな。”4✕□ = 32” って問題で、4・1が1 4・2が8って、順番にやってるやん。個別に暗記してな意味ないやん」
こんなつまらない宿題を出すくらいなら、囲碁の詰碁を5問くらい出してくれた方がよっぽど勉強になる。予想以上に酸っぱい小振りのみかんを一粒咥えて、数字が規則正しく並んだサンドのプリントを見ながら、ぼんやりと思った。
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