FUJIFILM X100T
ポストに2通のハガキと1通の封筒、デリバリーピザのチラシが入っていた。
「おかえりー」
僕はその中からチラシだけ取って丸め、コンビニ袋をぶら下げただけのゴミ袋に入れた。油をひいたフライパンの前に立つ妻に、「ただいま」と言ってハガキと封筒をまとめて手渡す。
リビングでは、娘が算数の宿題をしていた。答えが3桁になる、ひっ算を使った繰り上がり一ヶ所の足し算らしい。
「式と答え書いたら、次の問題は一行開けんかいな」
目の前のリモコンに手を伸ばし、僕は騒がしいテレビのスイッチをパッと切る。
「観てたのにー」
消しゴムを縦方向に滑らせながら、口を尖らせる。行間を開けずに書いてしまったものは仕方がないので、赤の色鉛筆で区切りが分かるラインを引かせてみた。2、3問、娘に付き合って見ていた感じ答えは間違っていなかったので、僕はヌルりと立ち上がって洗面所で手を洗ってからキッチンに舞い戻る。保温のランプの点った炊飯器の「切」を黙って押した。
「ケチくさいオッサンやのぉー」
甲高い電子音を聴いた妻が、こちらを振り返って笑う。右手にフライ返しを持ちながら、郵便物を1通づつ確認していた。
京都府南丹町から届いた、「新米ができました」というハガキが一番嬉しかったらしい。
僕も嬉しい。
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