囲碁がうてない妻は、朝から晩まで娘に「すごろく」を何度も何度も付き合わされているのだそうだ。しかも、娘がずっと喋っているから寝る暇もないのだという。
その夜、仕事を終えて家に帰ると、玄関先で出迎えてくれた娘の手に、ルービックキューブが握られていた。
先日、大阪梅田から神戸三宮駅まで阪急電車に乗ったとき、向かいに座る大きなリュックを下げた外国からの旅人の男性がルービックキューブを何度も何度も繰り返しやっていた。1分足らずで華麗に6面揃えている様子は、まるで手品を観ているようだった。つい先週も喫茶スペースの隣の席で、1つのルービックキューブを兄弟が取り合いっこしているのを見たばかり。ナゼか僕の周りで流行が来ているような気がする。そんなルービックキューブを、妻が娘に買い与えたらしい。
「100均やから、固くて回らへんねん」
しょうもないもん買って・・・。僕は、妻が考える安易な魂胆の読みの浅さに、薄っすらと笑った。
「これ買ったら、ムスメが大人しくなるとでも思ったん?」
6面あるキューブの一つの面すら揃えることの出来ない妻に、汗で濡れたシャツを脱ぎながら意地悪く訊いてみた。妻の想像とは裏腹に、「すごろく」の時よりも倍増して娘はうるさくなったそうだ。「揃えろ」「揃えろ」と言って。その矛先が、待ってましたとばかりに僕のほうへと向く。
インターネットを使えば、ルービックキューブも6面揃えることができる便利な世の中に感謝する。何種類かのパターンさえ理解できれば、手順に沿って動かすだけみたい。少し考えてパターンに嵌まって、運が良ければ数分で僕でも揃えることができた。
「パパがハマってるやん」
私のだ返せと主張してくる娘に、「ちょっと待って」とタブレットの画面に釘付けになっている。クルクル回るはずのキューブがギクシャク回るのが100均製。日曜日の朝から、どの面すら色の揃っていないバラバラのキューブを僕が揃える。
「パパー、パパー。早く早く」
トイレに入っていると娘に急かされた。何事かと慌てて出てみたら、ワイドショー番組の「まじすか」のコーナーに「ルービックキューブ名人」が出ていた。ルービックキューブって、やっぱり流行ってるの?
そんなこんなでAmazonさんで、世界基準色配列という競技用のルービックキューブを購入してしまった。
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