「あっ、お米を仕掛るの忘れてた」
山間の道なのに、「お盆」と「週末」というキーワードだけで渋滞している道路に少しうんざりした。1ミリも流れなくなったバイパスで、妻がボソリと後部座席から声を掛けてくる。出発前の娘との協議により、今晩のおかずは「お好み焼き」に決定したらしい。
「お好み焼きとゴハンって組み合わせは、アカンらしいわ。」
先日のニュースで、関西の文化を否定するような特集が組まれていて驚いた。炭水化物と、炭水化物の組み合わせ。主食の「重ね食べ」が、有り得ないのだそうだ。つまり「お好み焼き定食」とか、「焼きそば定食」とかの未来が危ぶまれているというニュースだ。国道から、抜け道使う県道へと曲がったところで、僕の方から今日の晩ごはんを否定していた。
「パパ。大金持ちになってるー」
昼間の外遊びが危険なレベルの暑さに、お昼ごはんのあとクーラーのよく効いたゲームセンターへ吸い込まれた。たまたま空いたピエロのパチスロ台に無条件で座った僕に、コインを求めてやってくる娘。二掴みほどのコインを渡すと妻の居る方へと消えて行く。魚を釣るとコインが出てくるゲームをやっているのだそうだ。
娘から3度目にコインの要求があったときは、ピエロのおかげでカップにどっさり銀色のコインが詰まっていた。
「そろそろお茶飲みに行こうかー」
しばらくして、妻と娘がカップを空にして戻ってきた。すでに時計が15時半を指していた。大金持ちになった僕は、指紋認証で貯コインする。
帰り道、激しい夕立ちに遭遇して暫くのあいだ雨宿りしたために、夜ごはんを作るのが面倒くさくなったので、「王将」のテイクアウトを利用することにした。
「私は、焼きそば」
「私は、天津飯と餃子」
「じゃあ、中華丼にしようかな」
結局、思っていた味と違うとか辛いだとか文句をつけてきて、中華丼だけを注文した僕が、天津飯と焼きそばと餃子の残り全てを食べる羽目になる複雑な方程式が成立してた。
僕は、「重ね食べ」の鏡みたいな生活をしている。
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